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CROSS BORDER 【越境】戦略 ~可愛い社員には【越境】をさせよ〜vol.5

【越境】で得られることとは? 促進に向けてのポイント

みなさん、こんにちは。株式会社リクルートマネジメントソリューションズの井上功(こう)です。

全6回シリーズのこの特集の第4回では、市場(労働者)と企業とのコミュニケーションを掘り下げました。
バブル崩壊以降の日本企業が直面している雇用システムの限界、労働観やリーダー像の変化などを説明し、“可愛い社員には【越境】をさせよ”とは何を意味するのかを説明しました。ポイントは、アンゾフのマトリクスを個人に援用した、居場所(職場/事業部等)、提供価値(スキル/スタンス)、その両方の【越境】です。

第5回では、このような【越境】で社員が得られることや【越境】とリーダーシップの関係、デメリット、【越境】の際の注意点、【越境】の促進要因などについて掘り下げていきます。

目次

  1. 【越境】で起きていることや得られること
  2. 【越境】にデメリットはあるか?
  3. 【越境】を促進させるためには?
  4. 時代の流れは【越境】へ向かっている

【越境】で起きていることや得られること

【越境】で起こる変容的学習

今まで言及してきた、“可愛い社員には【越境】をさせよ”という状況下で、社員にはいったい何が起きているのでしょうか?

メジローの変容理論というものがあります。人は今までにない状況に置かれ、新しい知識を得たり、新たな経験をしたりする際、つまり【越境】をしたときに、どんな態度を取るのか?という研究内容です。肯定は素直に受け入れ、否定は却下します。矛盾の状況に陥った場合、ジレンマから悶々としたうえで、今までにない考え方(意味パースペクティブ)が創造される、というものです。これを変容的学習と呼びます。

【越境】の多くで起きていることはこの変容的学習かと思われます。

【図A:メジローの変容理論を基に筆者が作成】

図A:メジローの変容理論を基に筆者が作成

この変容的学習は、前回提示した個人アンゾフのマトリクス(図B参照)上では、

  • 居場所(職場/事業部等)が変わる下シフト→A
  • 提供価値(スキル/スタンスなど)が変わる右シフト→B
  • 居場所、提供価値の両方が変わる右下シフト→C

の3つの【越境】で促進されると考えます。

【図B:個人アンゾフのマトリクス(筆者作成)】

図B:個人アンゾフのマトリクス(筆者作成)

【越境】で得られる6つのこと

では、このような【越境】を経て得られることについて記していきましょう。
【越境】で得られることを、過去の【越境】研修による定量調査結果や先行研究等を踏まえ、6つにまとめました。

  1. 新しい知識
    →【越境】し、今までにないコミュニティとの交流をすることで、新しい知識を獲得することができます。新しい世界に身を移すゆえに、見聞きするものが全て新鮮であり、今までにない知識を得ることにつながります。もちろん、【越境】をしない個人アンゾフのマトリクス上の既存×既存の領域(上図D)でも新しい知識を獲得することは可能ですが、その場合垂直的学習の内容になることが多いと思われます。
  2. モノの見方の転換
    →【越境】することで、新しい世界の人たちの新しいモノの見方と相対することになります。自分とは異なるモノの見方は新鮮で、今までの自分の考え方との違いを認識するようになります。その結果、モノの見方の転換、即ち新しい意味パースペクティブが手に入る可能性が高まります。例えば労使間【越境】をして、経営者と対話すると、経営観や事業観が手に入る、といったことが挙げられます。
  3. 新結合
    →新結合とは即ち、イノベーションの基です。【越境】し、新しいコミュニティの人との議論をすることで、自分の何か×新しい人の何か、という状況が生まれます。これこそが新結合です。有意な何かと有意な何かのつながりは、新しい価値の創出の源泉といってもいいでしょう。【越境】はイノベーションのきっかけということができます。
  4. 対人対応スキル
    →【越境】し、初めての人たちとの交流をすることで、対人対応スキルは自然に磨かれます。なにせ初めてなので、「はじめまして」から入り、自分の背景や状況、考えを説明し、相手からも引き出さなければなりません。これは対人対応スキルを養う絶好の機会といえます。
  5. 人脈(ネットワーク)
    →今までにない世界の人たちとの交流・交換は、新しい人脈を生み出します。人脈とは、つながり、対話して、初めて生じるものです。そこに共通の目的があると尚更人脈が強化されると考えます。一緒に何かを創るといった共体験も、【越境】からの人脈づくりには効果的でしょう。
  6. ワクワク感
    →【越境】はドキドキです。なにせ、初対面の人たちと交流をするのですから。しかし、誰でも最初は初対面です。現業の職場へも、全員が【越境】して参加している筈です。そのときにはドキドキしたでしょう。【越境】は、ドキドキの接頭にワクワクが加わります。『ワクワク・ドキドキ』です。ただ、【越境】の度合いが大き過ぎると、『ハラハラ・ドキドキ』になることも有り得ます。このあたりのさじ加減は工夫の余地があります。

画像:【越境】で得られることとは? 促進に向けてのポイント

【越境】はリーダーを創る

【越境】で得られることを示しました。ここで、リーダーシップの先行研究を概観してみます。リーダーシップとはいったい何でしょうか?

リーダーシップの頑強な二軸

  • Agenda/Network(コッター)
  • 構造/配慮(オハイオ学派)
  • Vision/Empowerment(ウォーレン・ベニス)
  • Performance/Maintenance (三隅二不二)

纏めると、リーダーシップとは、“やることを決めて”、“人を動かす”こと、と言うことができます。リーダーとは、主体的にagenda(やるべきこと)を設定・進化させ、それを実現するべくnetwork(人を動かすこと)を維持・拡大する、ということです。

【越境】で得られる6つのことと、リーダーシップの頑強な二軸を掛け合わせると、以下のようになります(図C参照)。これを凝視すると、【越境】はリーダーを創る機会になるということが浮かび上がります。

【図C:【越境】で得られること×リーダーの機能(筆者作成)】

得られること
リーダーの機能
新しい知識 モノの見方の転換 新結合 大人対応スキル 人脈
(ネットワーク)
ワクワク感
Agenda設定    
Network構築      

【越境】にデメリットはあるか?

【越境】はいいことだらけ、という説明をしてきました。【越境】を促進する異業種協働型の研修を数多く企画・開発・運営してきた身としては、この【越境】の効果・効能は偽らざるもの、と自信を持ってお伝えできます。とはいえ、他者(他社)との交流や交換でさまざまなことが起きるのは事実です。そこで、【越境】のデメリットを考えてみましょう。

【越境】で転職してしまう?

ごく普通に言われることは、「【越境】経験を経ると転職してしまうのでは」というリスクでしょう。社員の人事を司る人事部としては気になるところではないでしょうか?

この問題は、以前からMBAに派遣した社員が辞めてしまう、といった話に代表されるように、有り得ることかと思います。
今までの自分の仕事や置かれている状況と、【越境】先やその後の状況を比較したうえで、現在地からの離脱を選んでしまう、ということでしょう。

確かに、【越境】経験をすると、様々な意味で“隣の芝生が青く見える”ことが起きます。相対化です。
一方で、「でも、今の仕事や会社の選択をしたのは自分自身」という揺るぎない事実もあります。数千名のフラッグシップ企業の次世代リーダーの方々が受講してきた異業種協働型の社会課題解決研修では、その葛藤の結果がデータとして表れています(図D参照)。【越境】経験を経て、自分の会社への愛着的態度や変革的態度がむしろ高まる結果になったのです。【越境】することで、相対化と相対化返しともいうべき内省が促進されたのだと考察しています。

【越境】は刺激的な時間ということができますが、その経験を経て、多くの人が自分の仕事の再認識や再定義をしているのでしょう。

【図D:【越境】前後の会社に対する態度】

図D:【越境】前後の会社に対する態度

(出所:リクルートマネジメントソリューションズ 異業種社会課題解決研修Jammin’ 事前/事後アンケート
 事前アンケート:回答期間:2022年8月4日(木)~8月22日(月) 回答者数:269名
 事後アンケート:回答期間:2023年2月20日(月)~3月1日(水) 回答者数:265名)

【越境】を促進させるためには?

この【越境】施策ですが、企業内でどのように促進させていくといいのでしょうか?
次の6つの観点で見ていきましょう。

  1. ポジティブなスキーマチェンジを起こす
  2. エントリーは公募型で受け付ける
  3. 現場と接続する
  4. 段階に応じた支援をする
  5. 【越境】経験者の人脈をつなぐ
  6. 【越境】者の認知と称賛

画像:【越境】で得られることとは? 促進に向けてのポイント

1.ポジティブなスキーマチェンジを起こす

一つ目は、【越境】するといいことがある、との認識をつくっていくことです。プラスのスキーマチェンジを起こすことが大切です。スキーマとは、「こうすると、こうなる」という認識のことであり、どちらかというとネガティブに捉えられます。「こうすると、こうなって、結局いいことがない…」といった感じです。それが大勢を占めると、組織の中で人は「こうすると」の行動をしなくなる、というものです。

では、【越境】を巡ってポジティブなスキーマチェンジを起こすとどうなるでしょうか?
代表的なものは、【越境】のキャリアモデルの提示です。「あの人は【越境】経験を経て、次のキャリアを創った。カッコいいな」といったものです。

今ふと思ったのですが、MBA留学後に社内の要職に就いてキャリアの階段を登った人を巡って、今までもポジティブなスキーマがあったのでしょう。それゆえ、「自分もMBAを取得しよう」というモチベーションにつながったのかと思います。ただ、それは一部の人のみの話として語り継がれてきたのかもしれません。

外部環境の変化が非常に激しい現代、世界的にリーダーの総力戦が求められています。一部のエリートが企業を動かす時代ではありません。であるならば、多くの次世代リーダーを開発するために、多くの人材を【越境】させるべきです。【越境】経験は、それを望む全ての社員に開かれていくべきです。【越境】施策が、社員の自律的キャリア開発とつながることによって、多くのリーダーを輩出することになると思われます。

2.エントリーは公募型で受け付ける

二つ目は、【越境】機会へのエントリー方法です。
【越境】のエントリー方法には工夫が必要です。特に【越境】系研修へのエントリーは、推薦よりも公募型で意欲を担保することが必要です。

勿論、推薦で選ばれし者感を醸成しながら動機を高めることは必要ですが、公募であれば自らが手を挙げるので、最低限の【越境】研修に対する意欲は醸成できます。エントリーの段階では、エントリーシートや動画プレゼンなども有効です。自己アピールをする際に、自分自身について考えるので、内省の機会としても機能します。公募型で受付をする際に何かしらのハードルを設けるのは効果的です。

3.現場と接続する

三つ目は、【越境】施策と現場との接続です。
【越境】で大事なのは適切な組織対応です。特に上司の巻き込みは欠かせません。個人や組織活性の観点で見てみると、自己有能性・自己決定性・社会的承認性を、【越境】者と現場、人事が三位一体となって担保するということです。自己有能性は、【越境】中に感じられることが必要で、それは仕事の再定義とつながります。自己決定性も【越境】期間中に発揮できるといいでしょう。そして、社会的承認性は、【越境】中及び【越境】後に組織から認められることです。

認知と称賛が成されると、【越境】者は嬉しいし自信につながります。【越境】者と現場との接続は、【越境】するがゆえになかなか目配せできにくいですが、【越境】を促進させるためには大事なことです。

4.段階に応じた支援をする

四つ目の大事な観点は、【越境】のプレ/オン/ポストでの支援です。
【越境】研修をイメージしてみます。プレ(【越境】前)では、事前説明会や、【越境】当事者・上司・人事・(トレーナー)との面談、目標設定、目指す姿、行動レベルでの迫りと握りが必要となります。オン(【越境】中)では、特に1 on 1による状況共有が有効です。「きちんと人事や現場がケアしている」ということを伝えることが大切です。ポスト(【越境】後)は、学びの共有会や【越境】による学びの実践を促進することが有効です。その学びをデータ化し、【越境】者の【越境】後の行動と紐づけて、経年での変化を追うことによって、【越境】学習のデータベースをつくり、自社固有のリーダー開発ラダーをつくることも可能となります。

5.【越境】経験者の人脈をつなぐ

五つ目のポイントは、ネットワーキング/定点観測/定点共有です。【越境】施策を継続して実施すると、【越境】経験者が増えていきます。所謂アルムナイです。その人脈を支援することで、【越境】経験者の内省の機会をつくりつつ、ネットワーク(人脈)の継続性や有用性を確認していきます。【越境】人脈から思わぬ新結合(イノベーション)が生まれることもあるでしょう。そのあたりの定点観測/定点共有をしていくべきです。

6.【越境】者の認知と称賛

六つ目は、認知と称賛です。ポジティブなスキーマを創るためにも、【越境】した人の認知と称賛は大事です。組織内で、【越境】アワード的なことを意識的・意図的に実施するのもいいでしょう。そこでは経営幹部との接続も有効かと思われます。経営者の【越境】施策に対する理解も進むことと思われます。

【越境】を促進させるためのポイントを考えてみました。何れも大事な観点かと思います。企業、組織内での【越境】促進を、是非とも進めていただければと思います。

画像:【越境】で得られることとは? 促進に向けてのポイント

時代の流れは【越境】へ向かっている

この【越境】ですが、大きな時代の流れになっているのは自明かと思います。日本経団連が会員企業に対して【越境】を促進しているかどうかの調査を行ないました(図E参照)。その結果、特に大手企業では8割強が社外への創出(副業・兼業)を認めているという結果になりました。【越境】を認める事は、企業にとってごく普通こととなりつつあります。

【図E:社外への創出(副業・兼業)を認めている企業の割合】

図E:社外への創出(副業・兼業)を認めている企業の割合

出典:経団連 「副業・兼業に関するアンケート調査結果」(2022)

そして、コロナ禍を経て、時代はどんどん【越境】し易くなっています。上述した副業・兼業、テレワーク、フリーアドレス、SNSによる個人の発信、ワーケーション、ボランティア・プロボノ…いずれも【越境】と言っても過言ではないでしょう。

最終回の第6回では、人事部こそ【越境】すべき、と主張します。守旧派と言われることが多い人事部こそ、【越境】して組織や企業変革の基点となるべきです。是非ともご期待ください。

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