第14回HR EXPO春(人事労務・教育・採用)|RX Japan株式会社第14回HR EXPO春(人事労務・教育・採用)|RX Japan株式会社

成功の鍵は健康データ活用にあり!

早期離職の予防に成功した iCAREのピープルアナリティクス

株式会社iCAREのCPO(最高人事責任者)中野雄介氏が、人事課題解決につながるピープルアナリティクスについて、iCAREが実践しているデータ活用による人事施策のPDCAを解説。実際にどんなデータをどのように分析し課題を特定するのか、その具体的なノウハウを紹介します。

目次

  1. はじめに
  2. ピープルアナリティクスを実践する意味
  3. 人事課題の手がかりとなる健康データの蓄積と管理方法
  4. データ分析から課題特定。施策のPDCA 5つのポイント
  5. 取り組みの結果、早期離職は0に。データをもとに、さらに社員が活躍できる環境づくりを

はじめに

はじめまして。株式会社iCARE 取締役 CPOの中野 雄介と申します。

当社は、「働くひとの健康を世界中に創る」というパーパスを掲げ、健康づくりのプロフェッショナルカンパニーとして、法人向けに健康経営のソリューションサービス「Carely(ケアリィ)」を提供しています。クラウドシステムと、専門家による人的サービスにより、企業の健康課題の解決に伴走し、健康経営の支援をしております。
私自身は2015年にiCAREに第一号社員として入社し、クライアント企業500社以上の衛生委員会立ち上げや ストレスチェック実施、メンタル不調者対応などの健康管理に携わってきました。2020年に取締役就任後、現在は自社の人事総務部門を管掌し、採用から育成組織開発、評価制度運用など人事全般を担当しています。

ピープルアナリティクスを実践する意味

iCAREでは、自社サービス「Carely」を活用して、毎月ストレスチェックを実施しています。ストレスチェックなどの健康データを含め、日々人事データを多く蓄積しています。
これには、人事の戦略や施策の現在地を知るという目的があります。さまざま取り組みがありますが、体感値だと、捉える個人の解釈や価値観によって異なるので、定量的な分析(ピープルアナリティクス)によって判断したいと考えています。

ただ、定量的な分析結果を得る前には、人事として日々現場で感じる勘と経験から生まれる仮説があります。「こういった組織課題があるのではないか?」といった仮説を確証にするための手がかりが、人事データを蓄積する目的でもあります。
人事の取り組みも、何が成功で何が失敗か、どこに着地したのか、その結果を分析するプロセスを通して初めてきちんと理解できます。

人事の取り組みは時間がかかります。今日やって明日結果が出ることはまずありません。社員からの認知を変える、捉え方や関係性を変えることは容易なことではないのです。担当者のレベルであれば、この1週間・1カ月くらいの目標に向かって対応することが適切ですが、マネジャーレベルだと半年くらいのスパンで、私のような立場だともう少し大きな課題に対して中長期で変革していくことが必要で、データはそのPDCAに不可欠です。
今回お話しするiCAREのピープルアナリティクスに関しても、1年半という時間をかけて戦略を実行し、ようやく今データから成果が証明されています。

人事課題の手がかりとなる健康データの蓄積と管理方法

健康診断やストレスチェックの結果、残業時間、面談の記録などが健康データにあたります。そこから、働くひとの心と体の仕事の状況を、プライベート面も含めて包括的に把握できます。

例えば、残業時間からは仕事の状況がわかります。ストレスチェック結果が悪化していけば心の状況がわかるかもしれない。その人の翌年の健康診断の結果を見れば、肝機能の値がすごく悪くなっている。つまり、生活の中でお酒をよく飲むようになっており、プライベートでの変化かもしれないし、仕事の影響があるのかもしれない・・・というように、心と体、仕事とプライベートは連鎖的な関係にあります。
発端がどこにあるのかを探ること、そしてその経過を仮説立てて検証していくことが、人事としての大切な役割だと思っています。その仮説立ての手がかりとなるのが、健康データです。

iCAREでストレスチェックを毎月行っているのは、仮説の点と点を結びやすくするためですが、従業員の立場では毎月回答することと、年に1度回答することでは、絶対に後者の方が楽です。そこに協力してくれる、納得してくれるためには丁寧な説明が必要です。なぜこれをやるのか、どんな結果がわかったのか、何の施策に使っているのかを伝えるということです。「なぜ」を誰にどのように伝えるのか、これは人事として難しいと感じる仕事でもあります。

管理方法については、残業時間、産業医面談の記録など産業保健由来のデータは基本Carelyに蓄積しています。他にもデータは2つあり、1つは3カ月に1回実施している「People(人事)アンケート」で、従業員エンゲージメントを測定しています。もう1つは面談データです。人事面談や健康経営の一環で行っている相談対応の記録です。入社前後の面談データは、スプレッドシートで管理することで、定点的にスコアを観測でき、他者と比べるなど分析しやすい状態を作っています。
分析は比較して異常値を発見する行為なので、時間軸や他者と比較できる状態で管理しておくことが重要です。

データ分析から課題特定。施策のPDCA 5つのポイント

それでは、実際にiCAREが蓄積した健康データからどのように課題を分析し、取り組みを行ったのか具体的に紹介します。
*PDCA:【ポイント】iCAREの場合

Plan : 【現状を正しく知る】退職者と在職者のスコア比較

2022年7月に私が人事管掌役員に着任した当時、早期離職(半年以内に離職)が相次いでいる状況でした。この原因を探るため、もしかしたら健康データから有益な情報を見出すことができるのではないかと考え、分析してみることにしました。

それまで企業の人事部門の方々に提案をする立場に長くいたので、人事が健康データを活用することの意義は自然と理解していました。そこで、退職者を母集団としたストレスチェック結果の集団分析を行うことにしました。Carelyに蓄積されている毎月のストレスチェックデータを人事側で適切に加工した上で、自社のデータアナリストに分析を依頼しました。
その結果、早期離職が相次ぐ状況を打開し得る有効なインサイトが見つかったのです【参照:下画像】。

在職者と退職者を比較し、退職日に向かって、4カ月、3カ月、2カ月、1カ月と迫っていく時間軸において、どんどん差が開いていく項目があったのです。それが仕事の意義、仕事の適正度、技能の活用度、まとめると「スキル」です。

つまり、在職者は自分がちゃんと能力を発揮できると思っていて、早期離職になっていく人は発揮できていないと感じている。そこから見えることは、会社の期待するスキルにマッチしていない人を採用しているという状態でした。

問題の本質さえ正しく把握できれば、その多くを解決に導けると個人的に考えますが、早期離職の問題については、問題の本質が採用プロセスにあることをストレスチェックデータから特定できたわけです。
この問題を解決すべく、採用フローの改善に着手し、採用チームのマネジャーが中心となって進めました。

Plan: 【カルチャーを大事にする】他社の例をそのまま取り入れない

採用プロセスの問題を解決するため、取り組んだのは、次の3つの施策です。

【採用フローの改善のために導入したこと】
【1】ワークサンプル(テスト)
候補者へ実務に近い課題を提示し、実際に一緒に働くことになる社員とのディスカッションを行う中で、スキルの見極め・マッチ度を確認する採用手法。候補者からも普段の様子や実務を知る機会となる。

【2】リファレンスチェック
候補者について、第三者(候補者の職場の上司など)に勤務状況や人物像などについて行う調査

【3】入社後プランシート
職務の内容や責任範囲、必要なスキルなど、一般的なジョブディスクリプションシートの内容に加え、入社後にどのような働き方・活躍を期待しているかを時間軸で記述したシート

ワークサンプル(テスト)やリファレンスチェックなどは実際に導入している企業もあると思いますが、自社の施策を考えていくにあたり、一般論や他社の例をそのまま導入しないことを意識しました。他社でうまくいった方法であっても、自社のカルチャーに受け入れられて効果を発揮するとは限らないからです。

iCAREは企業カルチャー・らしさを大切にしている企業です。こういった施策を決める際にも、迷った時は「iCAREらしさ」を意思決定の優先においています。実際に導入していく際にどういった点が自社のカルチャーと合うか? 情報共有の方法はどうか? オーナーシップは人事か部署か? など具体的なポイントで議論を重ねながら決定し、運用しながら少しずつ現在の形にしていきました。

Do: 【関係者との丁寧なコミュニケーション】Whyの説明・パーパスドリブン

人事部門で施策を決めた後の段階からは、特に社内のコミュニケーションを丁寧に行いました。というのも、各部署長をはじめ、採用には30名程の社員が協力しています。彼らに対して、きちんと取り組みの背景を理解して納得してもらうことが不可欠だからです。
かつてiCAREには大量採用時代がありました。iCAREのカルチャーでもあるのですが、当時、採用の判断を部署・個人に任せすぎたところもミスマッチを多発させた理由だと捉えています。共通の認識をもってこそ、人事で主導するところと、部署で主導してもらうシーン(ワークサンプルなど)が機能します。そのために、部署長に働きかけて取り組みを徹底していくことが重要だと実感しています。

他にも大きなポイントは、当社のパーパスドリブンの徹底です。iCAREは「働くひとの健康を世界中に創る」というパーパスへの共感に強みをもつ会社なので、そのパーパスを選考の中できちんと伝えることをより一層大切にしました。そのフォーカスに魅力を感じて引き寄せられる人は、その魅力に引き寄せられたまま内定まで至ります。シンプルでストレートな言葉でパーパスが作られていますが、自分の言葉でそれを候補者に説明できるように、日頃から社内に向けてもパーパスに関する情報を流通させるなど、理解を深める機会づくりに努めています。

Check: 【取り組みの検証の継続】入社後の面談・アンケートの運用

取り組み開始から、一つ一つの成果がどう現れているかを定量で観測を継続しています。入社後に新入社員向けに面談を行いますが、それを1カ月・3カ月ごとに行い、アンケートも回収しています。その結果から、良い状況が見えています。

設問に対して5段階の評価を聞いていますが、以前と比べると、入社後に低いスコアが出る人はいなくなりました。例えば、「自分のミッションを明確にわかっている」とか、「パーパスについて理解している」などの質問では、ある程度高いスコアが出ています。早期離職が多かった時には運用をしていないので単純比較はできないのですが、現状では総合点は高くなっていいます。

Action: 【違和感をなくす】候補者体験(CX)を考えたオファーブック

スキルのミスマッチを解消するための取り組みが開始され、きちんと運用される状況が作られていった一方で、候補者の視点に立った時にまだ解消すべきポイントがある、と現場の採用マネジャーから提案がありました。候補者が最終的に応諾してくれるよう、入社に至るまでの体験(CX)を向上させられるような取り組みができないか、そこで導入したのが「オファーブック」です。「オファーブック」とは従来のオファーレター(採用通知書、労働条件通知書)では伝えきれない内容を言語化し、メッセージとして提示するものです。 なぜ、当社はあなたに内定を出したのか。どういった仕事ぶりを期待しているのか。担当者からのメッセージなど、諸条件ではなく情緒的な表現を含めて書くものです。

内定承諾時に書類だけが届くという体験が、果たして候補者・受け入れたい企業であるiCARE、双方向に期待値を膨らませる状況に繋がっているか? 入社に至るまでのモチベーションを維持し続けるのに十分かどうか? という違和感が現場の採用マネジャーにはあったようです。

入社後プランシートも含める形で、生み出したい感情を「オファーブック」に落としこんでいきました。オファーブック作成作業は、候補者についてどんなポイントに惹かれ、どういった価値を提供できるかを社内の関係者とともに具現化していく機会につながっています。例えば、実際に身近で働くことになるメンバーからのメッセージなど、候補者の視点で考えながら、一緒に作成したものを内定オファー時に提供しています。その成果もあって、内定受諾率は40%向上し、93.6%という数字になりました。

取り組みの結果、早期離職は0に。データをもとに、さらに社員が活躍できる環境づくりを

現在はスキルのミスマッチ採用がなくなり、全ての離職に占める早期離職(半年以内の離職)の割合が25%だった当時から1年で6%へ、翌年には4%、現在は0%で進捗しています。

当社は「働くひとの健康」を創っていくための企業の環境や仕組みを支援していますが、自社の経験からも「働くひとの健康」の条件として、能力発揮ができていることは非常に大事だと思っています。そのために、人事は個々の従業員の能力を把握し、適材適所を実践していくことが求められます。自分の能力を認識していることもそうですし、能力を発揮できるように周りが支援をしてくれているか、それを感じているか、その認識を得られるかどうかは環境です。そのような環境を創っていく上で、障壁・課題となっていることは取り除いていく必要があります。

従業員の健康データを活用というと、従業員や組織の健康課題を解決することに注目が行きがちですが、当社では健康データを活用して採用における問題の本質を特定し、組織全体の課題を解決するに至りました。それほど健康データにはさまざまな可能性が秘められていて、健康課題の解決だけでなく、採用や人材育成、組織開発や働き方改革といった組織全体の課題解決につなげる汎用的な利活用をお勧めしたいです。【おわり】

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